第61章 逆鱗

佐藤詩乃は頬を押さえ、信じられないという顔で彼を見上げた。

「楓花の世話を何年もしてきたのよ。功績がなくたって、苦労はしてきた……! それなのに、こんな些細なことで私を殴るの? 南坂海乃のせいでしょ? あのクズが裏で焚きつけたんでしょ!」

「黙れ! その名前を口にするな!」

黒谷優は玄関を指さした。声は地獄の底から響くみたいに冷たかった。

「出ていけ。今日から二度と、楓花の前に姿を見せるな。もし楓花に何かあったら――お前の家族ごと、地獄に突き落としてやる」

「出ていけ!」

あまりにも容赦のない断絶。

佐藤詩乃は、これが本気だと悟った。触れてはいけない逆鱗に、踏み込んだのだ。

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